環境再生事業のプロセスと3年後の成果
昨年までの3年間にわたり、当方(高田造園設計事務所)にて実施いたしました、新潟市の海岸松林の環境改善施工の経過半年後、2年後、そして3年後の2018年の経過と結果を写真とともにお伝えします。
写真①は改善施工を始めた時の林内の土中の様子です。荒い根が表層ばかりに集中し、その下はまったく砂の状態で、根もあまり進入していないことがわかります。
写真②は半年後の土中の様子です。すでに根が分岐して、細根が深部にまで到達し、砂の色も黒く変化して多孔質土壌として育っている様子がわかります。
第2回でご紹介した植樹マウンド周辺や林内要所に配した縦穴周辺の土壌を半年後に試掘すると、すでに砂は膨軟な土壌構造に変化し始めていました。土中の水と空気の流れさえ改善できれば、大地は目を覚ますように、いのちを養う豊かな環境へと自ら変化してゆくのです。
同じく、改善作業半年後の林内の様子です。すでに松林の下に様々な種類の広葉樹が伸び、足元林床は優しい草や樹木の実生が緑で覆われて、潤いある心地よい林内環境へと変わってきました。
これに対して、隣接する未改善エリアの松林は、枝葉は乾き、林床はススキやイバラ、セイタカアワダチソウなど、本来荒れ地に優先する雑草が密集してヤブを形成していました。今回私たちが改善したエリアも、改善前はこの隣地と同じような状態だったことを考えると、土中の水と空気の流れを改善しただけで、これほどまでに早く森が回復することがわかります。
写真⑥は植樹2年後のマウンドに密植された松の様子です。互いに競争して、わずか2年余りで人の背丈を超えるまでに成長しました。この後は徐々に健康な天然の松林同様、劣勢木の自然淘汰が始まりますが、初期段階の2年で枯損率はほぼ0%という完全な優勢を見せてくれています。
ちなみに現在の海岸松林の造営は、全国一律規格で、すべての有機物をはぎ取って地形をも壊して土地を均してしまった上に、均等間隔で植樹する方法が一般的です(写真⑦)。しかしこれは枯損率も高く、苗の初期成長も遅く、しかも単一な裸地にしてしまうので、さらに土中環境の健康をも失われていってしまうことが多く見られます。
私たちが手がけたエリアの隣接地において、この一般的な造営方法で植樹された松苗は、2年以内に10数%の枯損があった上に、2年経過した苗の平均樹高は1mに満たず、私たちが改善したエリアの密植植樹地に比べて、明らかな生育の差が認められました(写真⑧)。表層保護のために敷かれたウッドチップも、呼吸しない大地では風に飛ばされて砂がむき出しになり、その下の土壌環境は一向に育っていかないのです。このことを見ても、松ばかりを見て、土中環境全体を育てるという視点のない、従来の植樹方法の問題点が浮かびあがります。
写真⑨は改善3年後の様子です。既存の松の成長も加速し、確実に再生に向かい、環境が育ってきています。実際に、新潟市での効果測定調査においても、枝葉と根ともに、その植物成長量の増大が顕著に観測されております
改善後のメンテナンスと経過観察は、2018年10月にて終了しました。そして、松林の土中環境改善に従事した3年間、この実証区域だけ、農薬散布を実施しなかったにもかかわらず、ここだけはマツクイムシによる枯損がなかった事実からも、マツ枯れの原因は決してどこかから飛んできた害虫などの問題でなく、高木が生育できなくなってしまった土中の環境にあったことを明確に示すことができました。
また、この方法は大規模な機械作業も資材も必要なく、現地の有機物や土の置き換え作業で用が足りるなどコストもかからず、かつ専門技術もほとんど必要としないことも特筆すべき点でしょう。
今回の新潟市の海岸松林における試みは、小規模なエリアでの実証とはいえ、明確な結果を示すことができたと考えます。にも関わらず、このような改善の視点が実務レベルでなかなか広まらない背景には、一体何があるのでしょう。自然の真理を忘れてしまった私たち社会も人も、これからはもっと進化して、先人が持ち合わせていた深い智慧や視点を見直し、本当の意味での自然との共生社会造りへと、素直に活かしていけるようにならないといけない、そんなことを考えさせられます。
誰にでもできる環境の再生、森との共存。そこに必要なのは、自然の動き方への観察と、寄り添う人の手の添え方です。それ以外に何もないのです。
環境の崩壊には必ず、見えない土中環境の変化がその背景にあります。なぜなら、地下と地上の環境は不二一如のものであり、地上の様相は地下の状態との相似形だからです。 人間だって、心身内部の健康状態が、肌艶や表情、顔色に表れる。それとまったく同じことなのでしょう。
つまり、見えない地下の環境が健康であれば、地上の木々も健康に生きられるということで、不健全な土中環境になってしまったその根本的な原因を見出してそこを排除するのではなく、全体の循環がよくなってゆくように、改善してゆくという、そんな視点こそが今、必要なのだと確信します。
なお、今回ご紹介しました松林改善の様子は、建築資料研究社発行『庭』誌(2019年4月1日発売号)において、4ページにわたって掲載されます。
そちらも合わせてご覧いただければ幸いです。