山梨・小菅村 水源の森再生プロジェクト 第3回活動報告

2021年12月3日の環境改善施工、4日ー5日の講座指導の活動を終えました! 

2021年12月3日から5日まで、水源の森再生プロジェクトの環境改善の施工と講座の指導のため、多摩川源流域がある山梨県小菅村で活動を行いました。
源流大学(NPO法人多摩源流こすげ)様主催で、2021年6月の第1回講座から、10月、12月と3回連続で行いました水源の森再生講座は、毎回定員(40名)を超える方にご参加いただき、無事1年を終えることができました。
改めて、ご参加くださいましたみなさまに心より御礼申し上げます。
ありがとうございます。

そして高田宏臣にお声がけいただき、すばらしい機会をつくってくださいました源流大学の石坂真悟さん、小菅村地域おこし協力隊の青山大我さん、盆子原武尊さん、山下春奈さん、そして企画担当の竹田潤平さんにも、改めて感謝申し上げます。

第2回に続きまして、第3回も高田宏臣と高田造園設計事務所スタッフ8名が施工と指導を担当いたしました。
3日初日の施工はじめ、この活動の一部は、地球守活動基金により支えられています。
活動基金へのご支援をいただきましたみなさまのご理解のもと、3日間有意義な活動を行うことができました。
支援者の方々に厚く御礼申し上げます。

山全体の地形と、水と空気の流れを読み取る力にフォーカスした第3回

今年度最後の講座のレポートの前に、第1回と第2回について少し振り返ります。
水源の森再生プロジェクトは、多摩川源流域の豊かな水源林であった山々が、戦後の拡大造林によって針葉樹の人工林に急速に変貌し、かつ大規模な土木工事よってインフラが整えられたことが要因となって、涵養力を失っていた山の力を、土中環境の視点で取り戻すための自然環境の読み解き、手を入れる知恵を今こそ取り戻すべき、という高田宏臣の思いに共感し、源流大学様が連続講座を立ち上げました。

小菅村はかつて源流の小さな沢ひとつひとつにわさび田がつくられていたほど、豊かな環境を持っていました。
4月の現地調査、10月の講座でのツアーで多くの方に源流域のわさび田が、荒廃した環境の中で瀕死の状況にあることを見ていただきました。その中で、山の涵養力を保つ先人の石垣の美しい造作から湧水が滴り落ちている様子は、私たちに伝統智(traditional wisdom)を見直す大切さをまざまざと見せつけてくれました。

とにかく、山の涵養力を取り戻すために、針葉樹を均一に植樹した暗い森をパッチ状間伐し、樹高20メートル以上になる高木樹種の広葉樹を植える。その作業道、植える場所も水の浸透する環境を育てる場として施工をする。そのために第1回は、山の地形を読み解きながら、山の作業道の付け方、正しいボサ置き、段切りの仕方などを徹底してお伝えし、最後にパッチ状間伐を時間が許す限り行いました。

第2回は第1回に続き、山道、ボサ置きとマウンドづくり、そして斜面の起伏を読み、谷地形を掘りながら、水が湧き出す場所を守る伝統的な石積みの施工の仕方についてお伝えしました。

第3回は、第1回、第2回と連続して行ってきた、斜面のどこに作業道・山道をつけるべきかを見極め、トラバース(等高線と平行に走る道)とヘアピンや谷渡をどのようにつけるかを再度見直しながら、施工の精度を上げていくことを意識しながら作業を進めていただきました。
以前施工したところも修正しながら、ときには判断を間違っていた施工を最初からやり直しながら、徹底して作業道もボサ置きも、マウンドも、水が土中に浸透する場となることを意識するように、地形を読む感覚、自然と向き合う感覚をご自身の中に養っていただくことを呼びかけた2日間でした。

たとえば、トラバースでも傾斜がついていれば、表層を水が走らないようにきちんと段を切ること。トラバースからトラバースへショートカットする道も直上させずに、最初の段は焼き杭と梢丸太で水の浸透装置と目印を兼ねて施工することなど、急斜面での道の付け方への視点や細心の配慮は、きっとおひとりおひとりに伝わったのではないでしょうか?

12月3日、まず高田造園設計事務所スタッフと参加者有志の方、源流大学・小菅村チーム、地球守の少人数で、第1回、第2回の作業を振り返りながら、道や谷の施工を修正したり整える作業を行いました。
12月4日、講座初日。第1回、第2回の講座で、自分自身でつけたトラバース、ヘアピンカーブの道を観察しながら、作業に必要な道具、資材を担いで山に入ります。
資材は源流大学のスタッフのみなさんが集めた軽トラック4−5台分もの落ち葉のほか、高田造園設計事務所スタッフが日頃の手入れで剪定した枝そだを使いやすい長さに揃えたもの、焼き杭、竹炭やもみ殻くん炭、間伐で山に置かれていた梢丸太など、朽ちたら大地と一体となるものを使います。写真は、事前に枝そだを運びやすい量にまとめているところ。
小菅村では第1回から高田造園設計事務所スタッフや経験を積んだ参加者の方を中心にリーダーを決め、班分けして作業を進めています。班ごとにその日に作業する地形や場所に集中する方法もすっかり定着しました。
班長さんの説明を聞く参加者のみなさん。全3回を通じて、林業関係者、環境改善指導者の方だけでなく、農業やデスクワークを普段されている女性、学生さんが多数参加してくださる多様な顔ぶれだったことも印象に残ります。
トラバースの道すじ、ヘアピンをどの境界木から回すか、微妙な斜面の地形を一緒に読み解く学びのひとときです。
講座初日に立ち寄ってくださった船木村長(右)。高田から梢丸太を渡した谷筋の湧水の様子の説明をさせていただきました。小菅村の村民の方も入れ替わり立ち替わり様子を見にきてくださり、少しずつ注目が高まっていることを感じます。

雨が幹を伝い、地面に到達したら、表層を流れずに大地に浸透するよう、根方に石を差し込む造作も古来の山の作法に倣ったものです。農業では邪魔者の石ですが、山の作業では大活躍します。
西側の尾根筋から作業を行った斜面を見下ろします。来年はパッチ状に間伐をして斜面に光を入れ、山の涵養力を高めてくれる広葉樹が育つ環境を整えていきましょう。

2022年度は小菅村の方々による広葉樹の植樹を!

今回、2022年度にさらにパッチ状間伐を進めたのちに、広葉樹の苗木を植樹するマウンドをできるだけつくりました。

第2回の講座を見学しにお越しくださった小菅村の船木直美村長が教えてくれたように、戦後の拡大造林で黒木(杉や檜などの針葉樹)が増えたことで湧水や沢の水が減っていき、わさび田の水が次第に枯れていきました。
山の涵養力を保つには、いわゆる雑木と呼ばれているミズナラ、コナラ、クヌギ、シラカシ、モミジ、サクラなどの広葉樹が健康に育つ環境が不可欠なのです。今回ボサ置きの背後やしがらみを編んでつくったマウンドにしっかりと苗木を密植・混植することで、10年後、20年後に針葉樹と広葉樹の混交林が育つように。
水源の森再生プロジェクトの2年目は、その足がかりをつくる講座となるでしょう。

小菅村の地元の方々が親しみ、参加しやすい講座へ

1年目の今年、小菅村の地元の林業関係者、地元のブルワリーの方々が参加してくださいました。
2年目は、より地域の方が参加しやすいよう、そして地域に根ざした活動として育つよう、源流大学のみなさまと工夫していきたいと思います。

今回の講座の場所を快く提供してくださった、山主のお一人である奥秋高雄さんが第3回講座の初日、12月4日にわざわざ現場まで見に来てくださいました。奥秋さんによれば、中組の3地域のうちのひとつ、大久保にある会場の山の斜面は、水の豊富な小菅村の中にあって、比較的水量が少なかったそうです。北側斜面の現場は、戦前は養蚕のため桑を、その下には蕎麦が植えられていたそうです。斜面の一角にたくさん積まれていた石は、奥秋さんによると、祖父の時代に、桑畑をつくる時に掘り出したものだとのこと。
第2回でしっかりと掘った谷のところには、わずかながらですがわさびも栽培していたそうです。
小菅村は昔村役場など公共の施設が火災にあって村史などが消失し、近世の記録をたどりにくいそうですが、こうしてお聞きしたお話から伺い知れる源流域の営みと、土地を守ってきた方々の思いと痕跡から、今の風景をどのように育てていくことができるだろうか、そしてどのように未来につなぐことができるだろうか、と思いを馳せずにいられません。

2021年は第1回から第3回まで、のべ7日間(うち1日は高田造園設計事務所による施工)、スタッフを含めまして300名以上が道の駅こすげ前の水源の森再生プロジェクトに参加しました。
資材の作り方をお伝えする、山崎尊史さんによる番外編講座(8月1日、9月17日、11月20日)にも多くの方にご参加いただきました。

参加者のみなさまも、東北から九州まで遠方よりお越しくださいました。メンバーは毎回ほぼ変わらず、同じ場所に通いながら継続して土地を読むこと・育てることに向き合う中で、同じ思いを持つ方々のつながりも生まれて、各地で相互に助けあうこともできるでしょう。

来春まで、しばらく時間がありますが、今年小菅村でご経験いただいたことを、それぞれの地元のフィールドで実践し、周囲の方と土地を育てる喜びを共有していただければ、本当に嬉しいです。