沖縄・やんばるの観光と環境を考える旅 リサーチと11月シンポジウム準備報告

2021年8月 今帰仁村、名護市、大宜味村、国頭村、本部町、宜野座村を訪ねました。

地球守では、11月に沖縄にて環境と観光を考えるシンポジウムを開催いたします。

きっかけは代表理事の高田宏臣が、造園家を志すきっかけとなった学生時代の旅以来、長年通ってきた沖縄の美しい海、自然が悪化の一途をたどっていること、それが年々加速していることを危惧したことでした。

今年4月、地球守の有志で旅をした沖縄・南城市では、20年前に世界遺産となった、沖縄の聖地を代表する「斎場御嶽(せいふぁーうたき)」を訪ねました。観光地として多くの方が訪れる斎場御嶽だけでなく、沖縄の方々が、日々の暮らしの中で大切に守ってきた名もなき御嶽・風葬墓・水場が、ことごとく力を失っていることを感じる中、この旅に同行してくださった地元の宜野座勝哉さん、そして満名匠吾さんから、やんばるの森(沖縄本島北部三村)と奄美諸島が世界自然遺産に登録され(2021年7月に国連ユネスコより正式勧告)、斎場御嶽と同様に、開発が進んでしまう不安を持っていることを聞きました。

観光による開発が、環境を荒廃させている事例は、沖縄だけでなく、日本全国で見られます。今回、やんばるの森が世界自然遺産登録されたことをひとつのきっかけに、沖縄から環境と観光について考える場をつくり、沖縄の仲間、そして地球守とつながりをいただいている各地のみなさまと問題や課題を共有したい。そのような思いで、この8月に地球守でシンポジウムに向けたリサーチに出かけました。

“やんばる”とは、山原と書き、森の広がる沖縄本島の北部一帯を指すことばです。今回は世界自然遺産に登録された北部三村(大宜味村・国頭村・東村)だけでなく、かつてゆたかなやんばるの森に囲まれていた名残のある、今帰仁村、名護市、本部町、そして宜野座村も含めて調査をいたしました。

この視察の旅には、一部地球守活動基金より支援をいただきました。
支援をいただきましたみなさまには心より御礼を申し上げます。

最初に訪れた今帰仁村の集落の水場にて、リサーチ同行メンバーで、水神様を参拝。写真、以下すべて©️NPO法人地球守。
石灰岩の岩盤から湧き出していた水を、かつて集落の人々が毎日汲みにきていました。
現在の水場から湧き出し、周囲から流れ込んでいる水。
今帰仁村の風葬墓。石灰岩の海岸段丘が侵食され、風化した洞窟が、伝統的な風葬の場です。亡くなられた親族や地域の方の亡骸をおさめると、御嶽から海までつながる岩盤の空気の流れによって、数年後に骨だけに風化するそうです。海で洗骨し、壺に入れたらふたたび風葬墓に納めるのが習わしでした。先祖が還っていった海に、ほとんどの風葬墓は面しています。
今帰仁村。ガジュマルはじめ、樹木が尾根から公道まで伐採されています。斜面地表を覆うように這っている根は、ガジュマルが岩盤を乾燥と崩落から守ってきた痕跡です。写真中央のガジュマルの伐採あとの下部に小さな洞窟があります。かつては風葬墓だったかもしれません。公道の先にはトンネルがあります。
今帰仁村の海岸段丘の切り立った崖面に風葬墓が見えます。
名護市屋我地島(やがじじま)周辺。手前の植物はマングローブです。干潮時になると、マングローブの根本に土が堆積しているのがわかります。この様子からも浅瀬の岩盤を、流入した土砂がつまらせて、湧水の動きを遮断していることが推測できます。
大宜味村北部、大石林山の山頂部付近です。沖縄本島、特に北部は、山頂から海まで石灰岩の岩盤で一体であることを実感します。
大石林山より眺めるやんばるの森。沖縄本島北部は石灰岩が隆起した山々が連なり、海岸段丘が海に迫っている地形が多く見られます。
世界遺産、今帰仁城に隣接するクバの御嶽中腹にある拝所にて参拝し、山頂まで登坂しました。
岩盤をガジュマルの大木が覆っている様子です。
ガジュマルの気根。幹の途中から根を生やし、地表に着地すると、そこから幹を支える支柱根となります。
同じくクボウ御嶽。山頂部の磐座に向かう途中、古道にそってアコウの立派な境界木が生えていました。
古道の造作を確認する高田。
クボウ御嶽山頂部からの眺望です。中央部に地形に沿って築かれた曲線状の石積みの城壁が今帰仁城址。手前の敷地は、観光地として開発された城址を訪れる人のための駐車場です。
本部町の石灰岩採石場。日本で自給できる建材のひとつが石灰石で、セメントの主原料です。写真中央、海に突き出た半島は、最近まで向こう側の海が見えなかったと言います。その話だけでも採石のスピードがいかに早く、地形をも簡単に変えながら進んでいることがわかります。半島の手前は、辺野古沖埋立のための採石、土砂、残土などを運搬し、船に積み込む場所。かつてここのサンゴ礁沖にも、ザトウクジラが子育てのために回遊してきたそうですが、ここ数年姿が見えなくなったそうです。
本部町備瀬集落の福木の屋敷林。台風などの海風や強い日差しから住居を守り、心地よい環境を守ってきた民間の暮らしの智恵です。風土に即した生活文化を、どのように生きた形で世代を超えてつないでいくか? 今回の観光と環境について考える旅のもうひとつの大切なテーマでもあります。
今帰仁村で食や環境など、沖縄の伝統と文化を次世代につなぐ活動に情熱を注ぐ満名さん。11月のシンポジウムでは、地元の方々とともに、精力的に準備にあたってくださっています。

御嶽、風葬墓、洞窟、そして水場から海へと続く地形は、島である沖縄では、どの地域でも見ることができました。
観光地として有名な御嶽だけでなく、海岸沿いを車で走らせると、山から流れる川や谷に沿って集落があり、山の際に小さな水場や風葬墓が、ガジュマルの影にひそやかに点在していました。

今回私たちは、沖縄で生まれ育った満名さん、宜野座さん、そして地元の方々たちの案内で、環境の要である聖地をリサーチしました。地域の文化と自然の豊かさを、どのように次の世代に生きたものとして受け渡していけるだろうか、という彼らの思いとともに視察の旅ができたことは、かけがえのない時間でした。
豊かな環境と聖地、そして人々の豊かな生活と生命とは分断することはできないと強く感じました。

特に満名さんが使われた「生まれ島」という言葉に、守るべき土地のある強さとやさしさ、そして覚悟を感じ、はっとしました。

今回訪問した沖縄本島北部の西側には、伊平屋島、伊是名島、伊江島、与論島などさまざまな島が海のすぐ向こうに見えます。それぞれの人がそれぞれの「生まれ島」と呼ぶべき場所があるのでしょう。
でもよく考えてみますと、日本列島も大きな島、小さな島々が寄り添っている連なりです。気候・地質・風土は大きく異なるかもしれませんが、私たちはすべて守られ、そして守ることのできる生まれ島を持っているといえるのではないでしょうか。

今回11月に向けて準備しているシンポジウムでは、観光地として捉えられることの多い沖縄を環境から見つめ直し、その要である御嶽・風葬墓・水場を守ってきた伝統的な知恵に、沖縄の暮らし・風土・文化の豊かさと未来への希望があることを共有する機会にしたいと願っています。

同テーマで自然読本⑤の制作も進行中です。
さまざまな形でみなさまに関わっていただき、ご参加いただく機会を作ってまいりたいと思います。

引き続き、秋に向けての地球守の活動と発信にご注目と応援をいただければ幸いです。

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